もしも啓太が女の子だったら!
丹羽哲也編
転入して間もなくの退学勧告。
それをMVP戦にて優勝することで取り消す事のできた伊藤啓太は、ほっと息を付くとともに、
本当にいても良かったのかという不安を持っていた。
本来なら、才能の有無以前に、自分はこの学園にいるはずはないのだ。
理事長だけは知っていたと、君をここに呼んだ理由はいずれ教えると言っていたけれど。
(…今は、それを悩んでる時じゃないか。)
啓太は、今共にMVP戦を戦ってくれた相手…学生会会長、丹羽哲也の姿を探していた。
転入してからずっと親身になってくれた。
そして、理不尽な退学勧告に一緒に立ち向かい、突き破ってくれた。
啓太は、そんな彼に心から感謝を伝えたかった。
そして、もう一つ。
啓太は、彼に恋していた。
勿論、伝えようとは思っていない。
(…あのひとにとって、俺は男の…啓太、だもんね。)
だから、この想いは胸にしまっておこう。
そう思った。
「王様!」
「!…啓太…。」
ようやく海岸で丹羽を見つけたら、丹羽は初めて見るような顔で啓太を見た。
「王様…?
あの、俺話したい事があって…。」
「話…?」
「?どうしたんですか?王様?」
やはり丹羽の様子がおかしい。
いつもの丹羽なら豪快に笑って啓太を迎えていただろう。
なのに、今の丹羽は切なげな瞳を啓太に向けていた。
(切ない…?)
自分の感じたことをに一瞬疑問が過ぎる。
「いや、何でもねえよ。
で、話ってなんだ?」
丹羽は笑って啓太に聞いた。
その笑顔に、啓太は疑問を心の隅に押し込めた。
「あ、はい。俺、どうしても王様にお礼が言いたくて…。
王様、本当にいろいろとありがとうございました!」
「…。」
深々と頭を下げる啓太を、丹羽は少し驚いたような眼で見た。
啓太は聞くのは後にしようと、言葉を続ける。
「俺がこの学園に馴染むことができたのも、MVP戦に勝って学園に残ることができたのも、
全部王様、あなたのおかげです!」
啓太は顔をあげて、最高の笑顔を見せた。
「俺、この学園に来れて、あなたに会うことができて本当に嬉しいと思いました。王様。」
「あ…ああ。」
啓太の言葉に、丹羽は曖昧な笑顔を返す。
「いや…だって俺は…、ほら、BL学園の王様なんだから…よ。」
「そうですね。」
啓太が笑うと、丹羽はまた視線をそらす。
先程からの様子に、啓太は少し不安を感じる。
「王様…?本当にどうしたんですか?」
そういえば、と先ほど篠宮から聞いた話を思い出す。
「篠宮さんからも聞きましたよ?運動部にかたっぱしから勝負を挑んでるって。
…何かあったんですか?」
素直に疑問をぶつけてくる啓太に、丹羽はまた言い淀めむ。
「…それは…その…だな。」
「はい?」
「だあぁあぁあああっっ!!」
突然丹羽が叫んだ。
と思った次の瞬間、啓太は丹羽に肩をつかまれていた。
「あのな、啓太!!」
「は、はいっ!?」
「オレは、同じ事をぐだぐだ悩むのはどうしても性にあわねえんだ!」
「はい?」
「だから…だからだなっ!」
「は、はい…。」
焦った様子だった丹羽は、一つ息を吐くと、意を決して、言った。
「オレは…お前が…好きだ、啓太。」
「は……、えっ…?」
丹羽の口から出て来たのは、告白の言葉。
(今…何て…。)
「最初は、お前の事はただの後輩で…いや、ただのって言っても普通よりずっとよくて、
けど…お前とつるんでるうちに…ああ、こいつは一緒にいて気持ちのいい奴なんだなって、そう思ったんだ。」
とつとつと語られる丹羽の話を、啓太は半ば夢心地で聞いていた
(好き…?この人が、俺…を?)
「…けど。啓太、お前…男、だよな…?」
「え。あ…それは…。」
丹羽の無意識に核心をついた問いに。
俺は女です。と、返すべきか啓太は迷う。
困惑した啓太の表情の意味を丹羽は別にとった。
「そうだよな。お前だってこんな…でかい…ごつい男より…かわいい女の子がいいって、
それは分かってるんだ。」
(そういう意味じゃないんです…けど。)
「だけどな、啓太。オレはそれでもお前が好き…なんだ。」
まっすぐに自分の気持ちをぶつけてくる丹羽。
彼から見れば、自分は同性で、そんな気持ちを認めることすら戸惑っただろう。
なのに、臆することなく愛を告げる。
(ホントに…強い人だな。)
啓太は改めて丹羽への敬意と、そして恋情を再確認する思いだった。
そんな啓太の気持ちを知るよしもなく、丹羽は覚悟を決めたように言った。
「啓太。男のオレにこんな事言われてとまどってるのは分かる
だけど…ダメならダメって言ってくれ。」
(王様…。)
「その方がオレもけじめがつく。だから…。」
そこまで言われ。啓太自身も覚悟を決めた。
この人の正直な気持ちに、自分も答えなければいけない。
そのために自分が嫌われても、この学校にいられなくなっても。
「王様、聞いてください。」
「え、お、おう!」
いよいよ来るかと丹羽は身構えた。
啓太は一息つくと、意を決して言った。
「俺は、女なんです。」
「そうか!って…はあ?!」
丹羽は眼を見開いた。
「啓太…あのなあ、こっちは真剣なんだぜ?こんな時にそんな……え……?」
「俺だって真剣ですよ。王様。」
「マジかよ…。」
丹羽の手は、啓太の手に導かれて啓太の胸に触れていた。
「言っておきますけど、詰め物じゃありませんからね。」
そこにあったのは、小振りながらはっきりと感じる感触。
「確かにある…な。
ちっせーけど。」
ばこ。
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「…という訳なんです。だから俺にもホントの所ははっきり…。」
「理事長の一存って奴か。ちくしょ、あの秘密主義者め。
まさかお前の他にも何人か女がまぎれてんじゃねえか?郁ちゃんとか。」
「殺されますよ…王様。」
丹羽の言い草に啓太は苦笑する。
と、ふと丹羽が真面目な顔付きで啓太に向かった。
「ってな冗談はここまでにして。お前に聞きたいことがある。伊藤啓斗。」
「え…、…はい。」
啓太は改めて今丹羽に話した本名を呼ばれ、背筋を正す。
「お前は理事長に言われたとはいえ、女なのに男子校に入り、
MVP戦を勝ち抜いてまでここに残りたいと言ったな。
周りを全て欺いて、その上でこの学校に残る理由はなんだ?」
欺いているという言葉は啓太の胸を痛めたが、それは事実だ。
だからこそ啓太は言わなければいけない。
啓太はゆっくりと口を開いた。
「俺は確かに最初転入の拒否が認められないからこの学校に来ました。
でも、3週間の時間はをすごして、この場所が本当に大事になったんです。
俺は何の取り柄もないし、何より女です。
本当なら退学勧告をうけいれるのが当然です。でも俺はどうしてもここに居たかった。
この場所でできた大事な友達や先輩…たくさんの人たちとの関係を途切れさせたくなかったんです。
この場所で知り合った大事な人たちと勉強でもスポーツでも、
なんでも頑張っていきたいって。
自分も一緒に成長していきたい、って…そう思ったからです。」
丹羽は先程から変わらない真剣な面持ちで聞いていた。
そんな丹羽を、啓太はやはり好きだなと思う。
だから啓太は、もう一つつけ加えた。
「それに、初めて好きになった…貴方とも一緒にいたいって、思います。」
怒るかもしれないけど、と啓太は笑った。
それは、丹羽の初めて見た少女の笑顔。
「〜〜〜〜。」
突然丹羽は俯くとがしがしと頭を掻き出した。
「お、王様?やっぱり納得いきませんか?」
啓太は丹羽に詰め寄る。
すると、啓太は次の瞬間、力強い腕で後頭部を掴まれるとそのまま引き寄せられる。
気がつくと。啓太は口づけられていた。
(お…さま…?!)
「ん…っ。」
「んな事言われてどう怒れってんだよ…な、啓太?」
がっしりと啓太を抱き締め。丹羽は満面の笑顔を見せた。
「王様…?」
「男だとか女だとか気にすんな!
お前は立派なこのBL学園の生徒で…オレの恋人だ。な?」
「…はい!」
啓太も、満面の笑みを返した。
そして翌日から。
啓太の24時間警護にあたる学生会長がいたそうだ。
(やっぱり女だって言うんじゃなかったかも…。)
END
はい、予定よりだいぶ遅れました丹羽君編でした!
話が決まるのは早かったんですが書いてるうちに意外と真面目な話になったのが敗因か…。